学術大会

広報委員会作成

平成20年10月10日(金)・11日(土)と東京の品川区立総合区民会館「きゅりあん」にて、昭和大学口腔衛生学教室の向井美惠教授を大会会長に、「障害者歯科の近未来―チーム医療と国際連携―」をテーマに2,000人を超える参加者のもとに開催されました。

特にポスター発表は、前大会までの発表形式と違い、座長をもうけポスター前での口頭発表後に質疑応答を行う形式でした。大きめの会場を四区画に区切った状態で、各セクションの発表が同時に進行するため、会場は多数の会員により熱気あふれる討論や質問が飛び交っていました。


ポスター発表会場


ポスター発表会場


広報委員会では、大会に参加できなかった会員へも学会の模様を感じてもらおうと広報委員会の各委員の分担で取材した特別講演やシンポジウムの様子や感想を掲載します。


【10月9日(木)】認定医講習会レポート

平成20年度第2回認定医研修会が、平成20年10月9日(木)17時30分から19時30分まで、品川区立総合区民会館「きゅりあん」小ホールにて開催されました。会場が満席となる約200名の参加者が、昭和大学医学部小児科学教室教授、田角勝先生による「小児摂食嚥下障害への対応―小児科の立場からー」と、日本大学松戸歯学部障害者歯科学講座教授、妻鹿純一先生による「障害者歯科における補綴治療」の2つの講演を受講しました。

田角先生の講演では、小児の摂食嚥下障害は、成長・発達期であること、重症児が多いこと、全身状態や心理面への配慮が重要であることなどが特徴で、その摂食・嚥下リハビリテーションを行うには、基礎疾患や合併症、栄養や呼吸状態などを常に考慮しながら進める必要があることが話されました。誤嚥や胃食道逆流症などの合併症の症状と対応や栄養評価方法、栄養所要量とエネルギー消費量の関係、呼吸障害と摂食・嚥下障害の相互関係など、チーム医療を行ううえで共通の知識として持つべきことを理解することができました。そして、摂食・嚥下機能を通して、脳機能を活性化し育てるという見方に、小児の摂食・嚥下リハビリテーションの奥深さを再認識しました。

妻鹿先生は、スペシャルニーズがある人の補綴治療の各ステップにおける配慮すべき要素や対応法について症例を提示して解説してくださいました。補綴前処置を必要とする症例が多く、必要に応じてテンポラリー(トライアル)レストレーションを行うなどは治療中に起こりうる問題を最小限にするために重要なステップのひとつとのことでした。各ステップ中でも咬合採得・咬合調整は特に困難が伴うところで、会場からも具体的方法についての質問がなされました。在宅の身体障害者の高齢化が進んでいること、要介護高齢者の施設内での楽しみ一位は食事であることなども示され、高齢の障害者への補綴治療の必要性が増していることが窺われました。

障害者歯科臨床では、多岐にわたるニーズへの対応が求められ、それに応じるためには、研鑽が必要です。認定医研修会はその良い機会となっていると思われました。

【10月10日(金)】開会式及び総会レポート


総会での大会長挨拶

平成20年10月10日(金)の9時30分からA会場において、第25回有限責任中間法人日本障害者歯科学会学術大会の開会式と会員総会が行われました。

最初に第25回日本障害者歯科学会総会および学術大会の大会長の向井美惠先生から開会のあいさつがあり、今回の大会では国際交流、国際連携をテーマに多数の外国の先生方にも講演を依頼したことなどのごあいさつがありました。


総会での次期大会長挨拶

会員総会では、森崎理事長の開会のあいさつの後、芳賀定評議員が議長に推薦され、前回の大会以降ご逝去された名誉会員の小守浩先生、榊原悠紀朗先生、元理事の大竹邦明先生への黙とう後、森崎理事長と柿木会計理事より会員動態、平成19年度事業報告、会計報告、平成20年度事業計画、会計報告が行われました。平成21年度事業計画の中では、専門医制への準備、地方会制度の準備、学会としての公益的事業の検討、実施、そして認定歯科衛生士審査事業が開始されることの説明があり、大会開催中にも向井美惠認定歯科衛生士審査委員会委員長から説明のセッションを設けていることが話されました。

引き続いて、長崎県歯科医師会口腔保健センター歯科診療所の長田豊先生から、第24回日本障害者歯科学会総会および学術大会(長崎)の実績及び決算報告が行われ、2,067名の参加があったことと337題の一般演題の発表が行われたことの報告がありました。

そのあと、次期大会長の石黒光先生から、第26回日本障害者歯科学会総会および学術大会(名古屋)が平成21年10月 31日(土)から11月1日(日)の日程で、名古屋国際会議場で「-なごやかに集い語ろうー地域での生活支援型の口腔メンテナンスを」をメインテーマに開催予定であることが報告されました。そして、次次期大会長の植松先生から、平成22年10月23日、24日に開催予定の第27回日本障害者歯科学会総会および学術大会(東京)の説明がありました。

最後に、理事会で第28回日本障害者歯科学会総会および学術大会の開催地候補に、福岡を開催地に大会長を緒方克也先生の推挙があったことが会員総会で審議、承認されました。緒方先生からは、その年度の歯科麻酔学会が10月7日、8日、9日を予定しているため、平成23年 10月の末の開催を計画中であることが報告されました。

そして、妻鹿認定委員会委員長より平成19年度11月以降の認定医および指導医、臨床経験施設の動静が報告され、以上の報告および審議事項の後、河瀬総一郎先生と木本雅子先生の2名に日本障害者歯科学会優秀論文賞の贈呈が行われました。


河瀬先生への優秀論文賞授与


木本先生への優秀論文賞授与


河瀬先生と木本先生


【特別講演】「摂食・嚥下リハビリテーションとチームワーク」レポート


特別講演は藤田保健衛生大学医学部リハビリテーション医学講座教授の才藤栄一先生による講演が行われました。


特別講演


特別講演感謝状授与


摂食・嚥下リハビリテーションは、近年急速に発達してきた概念であり、摂食嚥下障害は①外部からわかりにくい ②訓練管理上の危険性を伴う ③重篤な障害の並存 ④一般生活の問題など医療・福祉・地域を含んだ広範囲な問題を含んでいる。

この障害に効果的に取り組むためにはチームワークが不可欠であり、チームワークとは一人で出来ないことを複数の人間が一緒になって行う活動であり、規範的かつ課題指向的であるために、必然的にチームの中に利己性と利他性が混在することになる。さらに医療(チーム)というものが社会のサブシステムであるということも認識しておかなければならない。この上で「現実的」目標を目指すことがチームの仕事となる。

作業ではそれぞれのメンバーが役割を分担することになり、その役割を考える上で問題になる点が二つある。一つ目は、専門性と分業との相性が悪いということ。二つ目は自己完結性とチームワークの相性も悪いということ。役割には自働的、無意識的な強い感情が伴うのでひとたび衝突が起きると事態は深刻になるほか、医療職種の階級性(医師と看護師とういような)の問題もある。ともすればチーム内の民主制が損なわれかねない。

メンバーにはこういったことを解決するための「知恵」が必要である。その知恵とは一定のゆがみがあることを認識し、修正することで自分の立ち位置(視点・観点)が明確になり物事が見えてくることである。一方、現実の現場では各職種がそろった理想的なチームが形成されているとは限らない。むしろメンバーが各々の専門性をこえた部分で活動をしなければならないことのほうが多い。これをtransdisciplinary team(講師はすし屋でラーメンとたとえられていた。)と呼ぶ。

日本摂食・嚥下リハビリテーション学会で新たに始まる認定制度は、「専門性に対して柔軟な態度が必要」という発想で全体の水準を上げようとする試みである。


ランチョンセミナー


ランチョンセミナー2

ランチョンセミナーは、金曜日に二題と土曜日に一題の計三題用意されていました。今回はランチョンセミナー2の「介護高齢者のQOLの向上を目指してー食を通した支援―」のレポートを報告させていただきます。

演者は、管理栄養士の麻植(おえ)有希子先生で、以下の三点を中心に分かりやすくお話しされました。一点目は、管理栄養士の業務内容などの理解のために、介護老人保健施設に勤務する管理栄養士さんとしての栄養管理・介護(予防)給付サービス・スタッフ教育等の仕事に加えて、地域におけるネットワークや学校との関わりを、ご自分の経験からのをお話しされました。

二点目は、栄養ケア・マネジメントシステム(NCM)についてで、高齢者における低栄養の分類・原因から切り込み、NCM(Nutrition Care Management)を栄養ケア・マネジメント(栄養 世話・みる 管理)と解説し、NSTが低栄養の治療という概念であるのに対し、NCMはQOLの向上が目的で全員が対象となると位置付け、両者の違いを明確にしました。

職場に勤務する歯科衛生士さんと共同で行った「歯の咬合状態と介護度・食事形態」「口腔内の衛生状態と介護度・食事形態」相関調査結果と「口の症状と栄養素・食品の関係」表は、大変興味深いものでした。

三点目には、当施設における嚥下障害者に対する管理栄養士の関わりで、施設における食事形態による対応を、さまざまな実際のメニューを交えて解説されました。最後にキーワードとして「多職種協働」と「自己実現の寄与」を再度掲げ、約50分の講演は瞬く間に終了しました。

【10月11日(土)】日本歯科医学会共催シンポジウムレポート

日本歯科医学会共催シンポジウムでは、福田理先生、安井利一先生の座長のもと、「スペシャルニードのある人たちへの歯科医療―歯科専門領域の連携と近未来―」のテーマで5名のシンポジストからの意見交換が行われました。


日本歯科医学会共催シンポジウム

はじめに日本大学歯学部小児歯科学講座教授である白川哲夫先生は、日本小児歯科学会の立場からご自分の症例をもとにスペシャルニードのある子どもたちへの対応として歯科麻酔医、歯科衛生士、看護師との連携や早期の歯科治療への介入の必要性を強調されました。次の岩手医科大学歯学部予防歯科学講座准教授の岸光男先生は、日本口腔衛生学会の立場から口腔ケアの指標としての舌苔に着目した歯周病や舌清掃との関連性、訪問口腔ケア介入による介護家族を含めたQOL向上と歯科衛生士の重要性、さらに持続可能な福祉社会を目指すことの大切さを述べ、日本老年歯科医学会理事長の山根源之先生は、日本老年歯科医学会の立場から歯科医療の過去から未来にかけての問題点と展望、今後の高齢者に対する歯科医療の介入についてお話されました。

東京歯科大学歯科麻酔学講座教授の一戸達也先生は、日本歯科麻酔学会の立場から全身麻酔法や静脈内鎮静法の活用は、スペシャルニードのある人たちに安全で快適な医療を提供するために必要であることや今後の歯科医療の中での歯科麻酔医の役割、活動についてお話されました。そして、最後に、東京都立東大和療育センターの水上美樹先生は、日本歯科衛生士学会の立場からの歯科衛生士教育の現状と卒後研修の必要性、認定歯科衛生士制度、さらに施設内の常勤歯科衛生士の必要性についてお話されました。

すべての発言で共通していたのは歯科医師、歯科衛生士に留まらず、他職種との連携を行うチーム医療の実践が今後の歯科医療では重要であり、今回のシンポジウムが契機となり、本学会とこれら5つの学会が緊密に連携することによってスペシャルニードのある人たちに対して、より充実した歯科医療の提供ができるだろうと感じました。

地域連携シンポジウム

障害者歯科学会学術大会2日目の13時15分から緒方克也先生と京都府歯科医師会の足立慶信先生の司会で地域連携シンポジウムが開催されました。


地域連携シンポジウム 座長

まず、「病院歯科の立場から」というテーマで、独立行政法人国立病院機構千葉東病院歯科医長の大塚義顕先生の発表がありました。全国の国立病院機構の病院および医療センターのうち障害者歯科診療をしている施設は29か所あり、マンパワー不足、点数が低く病院に評価されないなどの問題点を指摘されました。千葉東病院では一般歯科診療と共に摂食機能療法を積極的に行っており、病診連携については、患者が連携になれていないことの問題があり、他科との連携については月に一度検討委員会を開催し、チーム医療としての連携をめざしている事、近隣歯科医師会にかかりつけ歯科医の紹介をお願いしているなどの発表がありました。

続いて「地域における障害者歯科へのかかわり(診療所)」と題して千木良デンタルクリニック、千木良あき子先生の養護学校歯科医、特別支援学校協力医、重症児病棟嘱託医、通園通所施設嘱託医として、また自院での摂食外来での診療を通しての地域連携についての発表がありました。

その後、「地域センター」の立場から、北海道歯科医師会常務理事戸倉聡先生の発表があり、北海道の広大な土地と、厳しい気候のために移動が大変であることを挙げ、道内を6圏域に分け、現在オホーツク圏を除く五地域で歯科保健センターの整備がなされ、平成17年度から始まった「北海道障がい者歯科 医療協力医制度」で、地域における障がい者歯科かかりつけ歯科医(協力医)が平成20年度では268名いることが紹介されました。今後の課題として、協力医の質の担保、病院歯科と歯科保健センター、地域協力医とセンター間の連携について議論が必要とまとめられました。

最後に「地域歯科開業医と歯科衛生士の役割」と題して新潟県で開業されている藤本誠先生の発表があり、居宅あるいは介護施設の訪問診療、歯科保健指導、口腔ケア指導等を通して、行政・他職種との連携の必要性と一緒に行動するスタッフ、特に歯科衛生士の重要性を強調されました。


地域連携シンポジウム シンポジスト

発表後、シンポジストの四名の先生によるディスカッションが行われ、最後にコーディネーターの緒方克也先生から次のようなまとめがありました。

  1. サービスを提供するにあたり,医療と行政,教育において官民の連携が必要である
  2. 歯科医療の上で専門性とどう連携するかが大切
  3. 歯科サービスの提供において口腔センターと歯科医師会会員の連携の確立
  4. 連携医療が求められている中で,各歯科医院がどんな機能を求められているかの確認


市民公開講座


市民公開講座

市民公開講座は「おいしく安全に食べるために、こんな工夫、あんな工夫」をテーマに、大会会長の向井美惠先生と昭和大学歯科病院歯科衛生士長の日山邦枝先生が座長として、まず職種の異なる五名のシンポジストがそれぞれの立場から講演されました。

はじめに、養護教諭の小山文良先生から特別支援学校における給食への配慮について、個々の摂食能力や保護者、介助者および教員が抱える摂食介助への不安を把握し、安全・食環境を整えること・口腔衛生指導を軸に、誰もが無理をせずに肢体不自由児が安心・安全に学校給食を楽しめるように、保護者や担任教諭、学校歯科医、専門医療機関が連携することが大切であると述べられました。

次に白田和彦先生からは、歯科医師の立場から食に関連した全身・口腔の機能についての説明があり、おいしく安全に食べるには口腔ケアや口腔・歯・顎の機能を整えることが必要であること、また障害者のスペシャルニードに答えるために障害者歯科健診制度や障害者を囲む各職種の連携ネットワークの必要性について述べられました。鈴木秀子先生と手塚すが子先生は「歯ブラシ一本からの挑戦」と題し、知的障害者更生施設において入所者の口腔管理の自立と誤嚥性・吸引性肺炎予防を目指した歯科衛生士の取り組みについて講演されました。そして最後に、井上清仁先生は管理栄養士としての特別支援学校勤務経験をもとに、肢体不自由児に提供する給食における安全・衛生管理と実際の調理例について講演されました。

各シンポジストの講演後、フロアーとの質疑応答が行われ、それぞれの取り組みに対して行政の助成があるかなどの質問が出され、質を下げずに創意工夫することによって乗り切っているという現状に、座長の向井先生から行政(品川区保健センター)に意見を求める場面もありました。


市民公開講座


市民公開講座 シンポジスト


全員の講演を通して、障害者が安全においしく食事を楽しむためには、食材の安全性の確認、調理の工夫、個々の障害・個性の把握とともに、摂食機能の維持や口腔および全身の健康管理が重要であり、それらを総括的にサポートするためには、単独職種ではなく、複数の職種が自分の立場を生かし連携していくことが不可欠であると強く感じられました。


閉会式およびプロフィラックス賞


プロフィラックス賞贈呈

妻鹿副理事長の司会で第2回日本障害者歯科学会プロフィラックス賞の発表が行われました、プロフィラックス賞のスポンサーであるタカラベルモント株式会社の代表者の挨拶の後、応募のあった10演題(口頭2題、ポスター8題)から溝口理知子先生(豊田市こども発達センター歯科)の「知的障がい者施設通所者の肥満と欠損歯数との関連性」(演題番号 P3-42)の受賞が発表されました。そして、森崎理事長より表彰状が、タカラベルモント株式会社より副賞が受賞者に授与され、その後に受賞者である溝口理知子先生のスピーチが行われました。


閉会のあいさつ

閉会式は大会準備委員長である弘中祥司先生が檀上にあがり、約2,000名の参加者があったとの報告があり、無事閉会式が執り行われました。


懇親会


懇親会は10月10日(金)の18時から品川プリンスホテルアネックスタワー5Fのプリンスホールにて行われました。たぶん、過去の学会懇親会の中でも最も広い会場に大勢の会員や来賓の先生方が集まり、その中には国際学術交流アクションプランで来日された韓国の先生方や国際シンポジウムや招聘講演のため来日された先生がたも混じって国際色豊かな宴となりました。大会長の向井先生のごあいさつや日本歯科医学会会長の江藤先生をはじめ、他学会の理事長などからもごあいさつをいただき、豪華な晩餐の合い間のアトラクションには世界的なオカリナ奏者の大沢聡さんやFOLK DREAMERS、昭和大学MEDICAL ALL STARS JAZZ ORCHESTRAなど多彩なバンドの名演奏に酔いしれた夜でした。


懇親会


懇親会


懇親会