学術大会

広報委員会作成


第27回学術大会

平成22年10月22日(金)・23日(土)・24日(日)と東京のタワーホール船堀にて、東京医科歯科大学大学院高齢者歯科学分野教授の植松宏先生を大会会長に、共催の東京都江戸川区歯科医師会の先生方のご協力のもと、「高齢社会における障害者歯科医療」をテーマに開催されました。今回の大会では、アジア各国からの参加者も多く、国際シンポジウムやアジアセッションでのポスター発表にもたくさんの演題があり、数多くの参加者の活発な質疑応答がみられました。

広報委員会では、大会に参加できなかった会員へも学会の雰囲気を感じてもらおうと広報委員会の各委員の分担で聴講した特別講演やシンポジウムの報告を掲載します。

【10月22日(金)】認定医研修会

平成22年度第2回認定医研修会が10月22日(金)に5階の大ホールにて開催されました。認定歯科衛生士の履修単位の対象にもなっているため、多くの歯科医師、歯科衛生士の参加がありました。最初に「発達障害の脳科学」という演題でお茶の水女子大学教授の榊原洋一先生が講演されました。

榊原先生はNHKのテレビ番組や新聞の連載などで著名な先生で、小児科、小児神経学、発達障害の分野が専門です。テーマの「脳科学」という視点から、ADHD(注意欠陥多動性障害)の行動特徴を脳の実行機能という観点から評価する方法や、ワーキングメモリー(作業記憶)の障害と仮説した疾患説明などのお話でした。ADHD以外ではPDD(広範性発達障害)、PDDNOS(特定不能の広範性発達障害)、autism(自閉症)、アスペルガー症候群、HFA(高機能自閉症)などの概念や診断の際の特徴などをわかりやすく説明していただきました。

また、画像診断と脳病理のお話では、脳画像測定機であるf―MRIやPET、MEGなどでの実験データを過去の文献から説明してくださり、各障害の脳血流の変化や神経活動の程度の差を検出できるようになり、疾患自体の解明も進んでいるとのことでした。病理面では、自閉症に効果のある薬剤が開発されており、今後、脳病理の解明により100年単位かもしれないが自閉症などの特効薬が開発される可能性とその期待をお話になり、あっという間の50分間でした。

引き続いて行われた二番目のテーマは「障害者福祉と地域福祉」というテーマで、当学会の副理事長の緒方克也先生のご講演でした。

障害者歯科にかかわる医療従事者にとって診療に関する基礎知識を習得する場面は多いですが、社会福祉に関する法律や福祉構造の理解は困惑する場面は少なく、地域福祉の理念と地域の歯科医師が地域福祉の一員として貢献できる様子をわかりやすく解説していただきました。地域での歯科保健を障害者の地域福祉の中の支援という考えから展開し、健康支援の一員としての参加の可能性が印象的でした。

【10月23日(土)】開会式及び会員総会

平成22年10月23日(土)の9時からA会場の5階大ホールにおいて、第27回一般社団法人日本障害者歯科学会学術大会の開会式と会員総会が行われました。

最初に第27回日本障害者歯科学会総会および学術大会長の植松宏先生から開会の挨拶として、今回の大会では、韓国、台湾、中国、タイ、インドネシア、イギリスなど外国からの発表やシンポジストが多く、まるで国際学会のように開催できるので外国のセッションにもふるって参加して交流を深めてほしいことなどを話されました。

会員総会では、向井理事長の開会の辞の後、定款にのっとり緒方副理事長の議長のもと平成21年度事業報告や決算報告、平成23年度事業計画や予算報告がありました。また、今後の学術大会開催地に関しては、第28回が福岡県、第29回が北海道、第30回は大阪府にて開催予定であることも報告されました。

続いて平成21年度優秀論文賞の表彰と記念品贈呈が行われ、原著では松本歯科大学障害者歯科学講座の隅田佐知先生の「発達と特性から見た自閉症児の歯科適応」が、臨床では日本歯科大学付属病院口腔介護・リハビリテーションセンターの田村文誉先生の「要介護高齢者の自食用スプーンの選択に関する考察」が受賞されました。

当学会の元理事長でもある神奈川歯科大学客員教授の池田正一先生が平成21年度日本歯科医学会会長賞(研究)を受賞された報告があり、受賞を記念して表彰が行われました。

最後には、次期大会長の緒方先生から第28回一般社団法人日本障害者歯科学会総会および学術大会の進行状況の説明の挨拶があり、2011年11月4日から6日まで福岡国際会議場にて「医療と福祉のコラボレーション」をテーマに開催するとのことでした。


開会式及び会員総会


開会式及び会員総会


開会式及び会員総会


特別講演「ブレイン・マシン・インターフェース(BMI)が拓くリハビリテーションの新たな可能性」


特別講演

学術大会第1日目の会員総会に引き続き10時10分より、向井学会理事長を座長に慶應義塾大学医学部リハビリテーション医学教室の里宇明元教授による講演がありました。

ブレイン・マシン・インターフェース(BMI)は「脳介機装置」と訳され、「人と機械の意思や情報の仲介のためのプログラムや機器であるマンマシンインターフェース(人介機装置)のうち、脳波を解析して機械との間で電気信号の形で出入力するためのプログラムや機器」と定義される。リハビリテーション医学におけるBMIは「脳機能の一部と機械を融合させ、障害を低減するための技術」と位置付けられ、臨床応用が実現すれば本人のADL、QOLの向上、社会参加の促進をもたらすだけでなく、社会全体の医療・介護に係わる負担を軽減することで、大きな福音となりうる。

1. リハビリテーションにおける治療

リハ医学の意義は後遺症の治療ではなく、予測に基づく障害の予防・最小化にある。後遺症に対しては、機能回復的アプローチと代償的アプローチがあるが、BMIはその両者に応用できる。

HANDS療法(Hybrid-Assistive Neuromuscular Dynamic Stimulation)は、残存機能を活用した代償的アプローチの一つであるが完全麻痺の場合には適用外となる。そこでBMIの登場となる。BMIには入力型と出力型があるが、思っただけで運動を引き起こす出力型BMIが有効となる。また、BMIは目的別には機能代替型と機能回復型に区分される。

2. 研究の展開

2008年より5年間の予定で、文科省脳下顎研究戦略推進プログラム「日本の特徴を活かしたBMIの統合的研究開発」がスタートした。慶應は国内5つの研究機構と共に複合体を形成し、非侵襲型BMIの臨床実証を担っている。機能回復型としては、BMIニューロフィードバックによる筋活動の誘発を用い、イメージするだけで全廃機能に運動を起こさせることに成功している。また、革新的技術推進費を活用した新たな展開も披露した。

最後に、口腔への応用としては、全廃者のコミュニケーション手段としてのBMIの応用は既に進められている。一方で、嚥下等の運動に関しては全く研究を進めていないので歯科関係者からの助言を求めるとして、講演を締めました。


シンポジウムⅠ「口から食べて元気になる」


シンポジウムⅠ

大会初日午後1時30分より5階B会場において、福岡リハビリテーション病院歯科部長平塚正雄先生、医療法人渓仁会札幌西円山病院歯科診療部長藤本篤士先生、福岡歯科大学成長発達歯学講座障害者歯科学分野准教授塚本末廣先生をシンポジストとしてお招きして「口から食べて元気になる」というテーマのシンポジウムⅠが開催されました。

平塚先生は、「病院歯科における廃用症候群への対応」というテーマのご講演の中で、安静臥位の「臥位」は「害」であることから、ベッドサイドを中心とした良肢位保持の設定や座位獲得のためのポジショニングが安静臥位や低活動から引き起こされる廃用症候群の予防のためのファーストステップであると述べられました。そして、座位獲得、端座位訓練、座位バランス訓練および車椅子移乗へとつながるADL獲得が、自分で口から食べるための姿勢獲得に向けた重要なプロセスであると述べられました。

藤本先生は、「口から食べることの意義と、支えるために」というテーマのご講演の中で、元気な頃から口腔機能の低下を予防し、いつまでも口から食べられるという視点に立った取り組みの中で、①咬合力、②嚥下力、③口の清掃度、④口腔周囲の動きの4項目を指標とした高齢者のお口の元気度検査をご紹介いただきました。

そして、栄養方法と生命予後の関係においては、小腸における免疫機能の維持という観点からも、廃用症候群の予防にはできる限り通常形態に近い経口栄養が重要なファクターであると述べられました。塚本先生は、「口から食べることは生きること」というテーマのご講演の中で、長期安静臥位でのTPNによる「口から食べない」「口から食べさせない」ということと、「生きる意欲の低下」が寝たきりを誘発し、最終的には廃用症候群における様々な機能低下を引き起こすと述べられました。

また、ご講演において、廃用症候群を呈して口から食べられずにTPNのまま亡くなられたご母堂様の病態経過と、廃用症候群を呈したものの転院した福岡リハビリテーション病院において、歯科を含めた病院全体でのリハビリテーションを行うことで、TPNから経口栄養への転換が可能となり、元気に回復されたご義母様の病態経過を詳細に動画でご提供していただいたことには深い感銘を受けました。

今回開催された「口から食べて元気になる」をテーマとしたシンポジウムⅠは、高齢化社会が進む日本において、健康寿命の延長や、栄養方法と生命予後の観点から、歯科医療に「何が求められているのか?」、歯科医療は「何をすべきなのか?」「多職種とどう連携するのか?」を考える上でとても有意義なセッションでした。

教育講演Ⅰ「食行動の発達と障害」


教育講演Ⅰ

教育講演Iは、10月23日14時から5階大ホール(A会場)、森崎市治郎先生を座長に、昭和大学医学部小児科教室教授の田角勝先生にご講演いただきました。前半は、食行動の発達を理解する上で重要なこととして、食べる機能の発達は脳の発達が大切であり、食べるために必要な脳の機能の発達を診ることが大切であるということを挙げられていました。そして、脳の可塑性(柔軟性)に触れ、巨舌症のお子さんの症例を挙げながら、子ども自身は、状況に対応する能力が大きいことも指摘されました。その反面、脳の傷つきやすく、適切な時期に適切な刺激を入れることの大切さをお話ししていただきました。医療側の注意点として、問題点の修正ではなく、適応能力を生かした対応が重要で、子どもたちが食べることについて意欲をもてるようにすることが大切であるとのことでした。

後半は、脳の発達を踏まえた上で、「上手に食べさせてもらうことを学ばせるのではなく、自ら食べる行動を育むような工夫が必要」であることを強調され、食物に対する嗜好は、すりこみ現象であり、間違ったすりこみは、一定のものしか食べられなくなることや、そのためにはおいしく食べる経験が必要で食べることが嫌になるような訓練は意味がないとのことでした。また、意識して嚥下させるのではなく、無意識に呑み込めることが大切だという点もお話しいただけました。

とても印象的だったことは、スライドで提示された症例について「表情を見てほしい」と語られたことです。親が楽しい育児ができるように周りが支援していくことも大切であると最後に強調されていたように、ともすれば機能や口の周りに視点がいき、親に負担ばかり押し付けてしまう指導的な対応をとっていたのではないかと反省しながら会場を後にしました。


国際シンポジウム「口腔の健康と栄養ならびに日常生活の満足度 -アジア諸国のデータを比較してわかること-」


学術大会初日午後のB会場では、「口腔の健康と栄養ならびに日常生活の満足度―アジア諸国のデータを比較してわかること-」をテーマとする国際シンポジウムが開催されました。守屋先生、薄井先生を座長として、タイ、台湾、中国、韓国、インドネシアそして日本の6か国における高齢者社会の現状と高齢者の口腔および全身の健康状態について各国の先生が講演されました。

65歳以上の高齢者人口の割合は、日本の23%が最も高く、他の国は10%前後ですが、いずれの国も高齢者人口の増加が予測されており、近い将来、高齢者の健康問題が大きな課題となってくることが示されました。高齢者の口腔疾患の現状では、齲蝕罹患率の高さ、喪失歯の多さなどと未治療の場合が多いことがアジア諸国共通の状況のようでした。全身の健康との関連においては、自立高齢者において自己評価咀嚼能力の不良群で、栄養状態や体力の低下がみられたことや、自己評価咀嚼能力の不良率が高く、慢性疾患の罹患率が高いなどの調査結果が守屋先生(日本)、He先生(中国)から報告されました。さらに、インドネシアからはRahardjo先生とHogervorst先生が、加齢に伴う認知障害の進行が喪失歯数と関連し、歯の喪失が認知症のリスクファクターであると報告されました。また種々の食品(サプリメントではなく)からの栄養摂取が認知症の予防に重要であることを述べ、歯の喪失と認知症との関係における栄養摂取の役割を解説されました。韓国のLeesungbok先生は、口腔の健康と全身の健康、栄養状態は一体で、喪失歯のある口腔にインプラントを併用した義歯を装着することで栄養状態の改善が図られると強調されました。タイのKaewplung先生、台湾の黄先生は、口腔の健康状態の改善のための戦略として教育を挙げ、高齢者歯科の領域の専門家の育成や地域住民に対する口腔保健教育への取り組みとその成果を話されました。

シンポジストの先生方は自国の現状を熱く語られ、7人の先生が講演を終えた時にはセッションの時間超過となってしまい、壇上でのシンポジスト間のディスカッションを聴くことができなかったのは残念でしたが、高齢者における全身の健康との関連において歯科の果たす役割の重要性と、国による状況の差はあるもののその実践のための取り組みがアジア諸国の共通の課題であることが理解できました。


国際シンポジウム


市民公開講座


【10月24日(日)】招聘講演「Uncharted Waters: Caring for the Aging Developmentally Disabled Patient」


招聘講演

2日目のA会場は、南カリフォルニア大学歯学部教授のローゼン・マリガン先生による招聘講演から始まりました。会場では、講演スライドに和訳対訳がついた資料が配布され、「未知の領域:加齢に伴う発達障害患者のケア」と題する講演が行われました。

 医学的介入の進歩や地域でのサポートにより、発達障害のある人の寿命は延長し、多くが両親と離れて自力で生活するようになった。しかし、発達障害のある人においては、障害のない人より加齢の速度が速く、健康状態の変化にも特徴があるが、その知識は浸透していない。成人障害者の健康状態の調査では、障害の有無にかかわらず多くの慢性疾患の罹患率には類似性があるが、障害者ではより若年で診断され、高い罹患率を示した鬱、けいれん発作、認知症は二次障害へと移行していた。ダウン症候群では、通常70代に診断されることの多いアルツハイマー病が、50代始めに診断される。口腔の健康状態の調査では、知的障害がある平均37歳の成人の13%は緊急歯科処置が必要、25%が6か月以内に歯痛があり、26%が義歯を必要とした。また、知的障害のある成人では歯周病が一般人の2倍、30%が自傷行為を有する、一般人より多くの欠損歯や未処置歯をもつなどの報告があるが、齲蝕の状態は、障害のレベルによるのではなく、口腔ケアの状態と関連していた。そこで、スペシャルヘルスケアのニードのある(SHCN)個人への地域における口腔衛生プログラムを開始した。プログラムの重要点は、

  1. SHCN個人と両親・介護者に活力を与える
  2. SHCN個人を治療できる歯科労働人口を整備する
  3. SHCN個人のための融資制度を策定する
  4. 歯科受診のアクセスを増やすためにコミュニティ資源を体系化する。

そして、障害のある人がより高い人生の満足度を得ることが全体的な目標である。以上が講演の概要です。マリガン先生は、自閉症スペクトラムを軸とするいわゆる発達障害のみならず、スペシャルヘルスケアを必要とする人として精神遅滞、脳性麻痺はもとより喘息、糖尿病、二分脊椎など発達期に明らかとなった障害のある人を包含してのケアプログラムを展開しておられました。これに関連して「Developmental Disability」の定義について、会場から確認の質問と追加がありました。


シンポジウムⅡ「高齢社会で活躍する口腔保健センター」


シンポジウムⅡ

わが国の高齢者人口は5月に23%になり、超高齢社会への入りました。地域の口腔保健センターにおいても、患者年齢層の変化、補助金の削減、在宅医療推進への対応など様々な変化を求められている時代です。今回のシンポジウムでは、地域の面積、人口密度が三様の旭川市、豊島区、江戸川区の各地区での口腔保健センターの取り組みが紹介されました。

旭川市の道北口腔保健センターは広域な地域が特徴でもあり、その広域な地域の障害者の診療に関しての技術の確保といった問題点があるそうです。特に、摂食嚥下機能障害の患者に対しての摂食指導では、中核となる人材の育成、確保。困難症例に関しての確実な診断と指導計画の立案などに対して、協力医を対象に2年間の研修医制度を立ち上げたり、インターネット環境を利用した遠隔地での画像診断など計画しているとのことでした。

また、数年間に及ぶ予算の削減に関してはセンターに来院する患者さんを中心に署名活動をして嘆願した結果、予算の改善が実現したとのことでした。会場からは、「署名は有効でしたか?」の質問に対しても、かなり効果があったとの回答で予算削減に苦慮する他のセンターの今後の活動の参考なったようでした。

豊島区は人口密度が最も多い地域で、豊島区歯科医師会は全国で最初に公益法人の承認が得られた歯科医師会で、地域医療への取り組みでは、単なる口腔保健センターという位置づけでなく、地区歯科医師会の地域医療全体の「拠点」としての役割を明確化し、地域の患者さんにとって歯科、口腔で困った時の「ワンストップサービス」を提供するといった明確なビジョンの元、事業が進められていることが話されました。その中では、委託費の削減に対しては旭川市歯科医師会の署名活動とは対照的に独立採算的な考えで、収益の向上、収支の改善を目指すことを目的にした訪問歯科診療事業の紹介がありました。その内容は、地域の患者さんからの訪問歯科診療の依頼があった場合、口腔保健センターが患者さんの住居の近隣の歯科医院に訪問の可否を打診し、訪問の了解が得られた場合には口腔保健センターの歯科衛生士と訪問診療用の器材を現場に派遣し、訪問した歯科医師は白衣一枚の持参で診療が行えるというものでした。診療報酬に関してはすべて口腔保健センターから請求し、診療した歯科医師には費用弁償で対応するといった内容でした。そういった取り組みのおかげで、現在の収益の大部分を訪問診療事業が占めるとのことでした。

また、地区の医師会の耳鼻科医との協力の元、訪問でのVE(耳鼻科医が施行)を活用した摂食嚥下指導を行っているとのことでした。新たな歯科医師会の運用形態のモデル提示として革新的な印象を受けました。

江戸川区歯科医師会の口腔保健センターは比較的新しく開設された口腔保健センターで、事業開始当初から口腔ケアサポーター養成の事業が計画、実施されている紹介がありました。口腔保健センター内に設置された研修室には、受講者の実習を考慮して多数の洗面台が設置されていました。洗面台付きの研修室は初めて見ました。

障害者の口腔保健の向上を目指すには、協力医や地域の歯科医院のスキルアップによって直接的に実施する方法と、障害者にかかわる保護者、施設職員、ケアマネージャーなどの人たちに情報や知識を提供し、間接的により多くの障害者の口腔保健の充実をめざす方法が考えられます。江戸川区歯科医師会の口腔ケアサポーター制度とは後者の考えに基づき、区内の居宅介護、訪問介護などの事業所の職員を対象に研修会を実施しているとのことでした。

教育講演Ⅱ「自閉症を巡る最近のトピック -自閉症スペクトラムの捉え方と支援-」

教育講演Ⅱは、10月24日(日)10時40分からA会場において妻鹿純一先生を座長に国立障害者リハビリテーションセンター自立支援局秩父学園園長の高木晶子先生が講演されました。

はじめに自閉症の社会的・医学的概念についてのお話がありました。障害分類としての国際障害分類(ICIDH)から国際生活機能分類(ICF)、DSM-ⅣからDSM-Ⅴへの変遷、現在使われている「自閉症」、「発達障害」、「広範性発達障害」、「自閉症スペクトラム」などの用語をわかりやすく整理して解説されました。

次に「発達障害者支援法」における発達障害の法律的定義、今までの法律では対象外であった高機能(軽度)の発達障害を対象とした国の施策としての「発達障害者支援法」のねらいと概要について説明されました。また、発達障害情報センターの情報(ホームページ、受診のためのパンフレットなど)の活用も勧められていました。

先生が所属する国立機関である秩父学園では、発達障害のサポート体制「発達障害支援の地域モデル」の構築を行い、地域における理解と連携、支援者の確保を行い、生活の場での支援の熟達者を育てること(Community Based Rehabilitation:CBR)を目指す取り組みをされている。そのために、秩父学園では医療と療育の連携システムとして発達診療所、発達障害専門外療育を開設し、秩父学園と近隣の公立施設との連携事業も紹介されていました。そして、青年期以降の自立のためには就労支援の他に、家族への支援も必要であると言われていました。また、発達障害の診断と評価、支援などについて現在までに先生が関わった研究について紹介されていました。

最後に、発達障害の早期発見(気づき)と早期支援を行うこと、支援の連携は情報の共有が必要であることを強調されていました。そして、すべてのライフステージで医学、福祉(療育)の境なく共生社会を実現することを目標にしているとまとめられました。

シンポジウムⅢ「摂食・嚥下リハビリテーションにおける歯科衛生士の役割」


シンポジウムⅢ

日本大学歯学部摂食機能療法学講座教授植田浩一郎先生と日本歯科衛生士会専務理事水上美樹氏を座長として3名のシンポジストを迎え行われました。まず。口腔保健センターの立場から東京江戸川区口腔保健センター歯科衛生士の岩淵晴美氏の発表があり。センターにおける摂食・嚥下リハビリテーションの実際。地域連携(特別養護老人ホーム訪問)における活動。地域歯科衛生士の口腔ケア研修の紹介があり。歯科衛生士の役割として口腔ケア。機能訓練とともに周辺職種への普及活動が大切であると強調されました。

次いで会社が経営している介護付き高齢者住宅11事業所に同僚と2人で勤務している、ヒルデモアたまブラザー歯科衛生士の吉尾恵子氏の発表では。事業所での業務内容を紹介し。その中で家族を含め看護。介護スタッフでの情報共有が大事であり。そのために口腔ケアマニュアルの作成。社内研修を行っていること。また各職種間の連携の重要性を話されました。

最後に。歯科衛生士教育の立場から。明倫短期大学歯科衛生士学科准教授江川広子先生の講演があり。修業年限3年制以上になった歯科衛生士教育の現状と「摂食・嚥下障害学」教育の実態の話があり。全国の歯科衛生士養成機関の内、無作為に抽出した26校では。全てにおいて「摂食・嚥下障害学」がカリキュラムに導入されていたが科目名は統一していなかったこと。講義・実習時間ともにばらつきがあるものの平均講義14.4時間。実習20.9時間であったなどの紹介があった。また当校では「摂食・嚥下障害学」未修得既卒者の教育(歯科衛生士の学び直しプログラム)にも力を入れており。これは認定歯科衛生士の特別研修単位としても認定されているとの事でした。

3名ともに関連職種との連携。歯科衛生士の教育の重要性を話され。会場からは介護職への情報と技術提供について。既卒歯科衛生士の再教育についてなどの質問が寄せられました。

市民公開講座「障害者の就労支援について -スワンベーカリー北浦和店での実践-」


市民公開講座

今回の市民公開講座は、昨年の12月22日のテレビ番組「ガイアの夜明け」で取り上げられた飯塚哲朗氏による障害者の就労支援としてのベーカリー店の立ち上げのきっかけから現在までの取り組みについてのお話でした。

飯塚氏は、もともとは埼玉県庁の障害者福祉課長のお役人さんでしたが、56歳のときに県庁を退職し、ベーカリー店立ち上げのため、ご自身で一年間パンを焼くための専門学校に通ったそうです。そのきっかけは、平成15年の元旦の日経新聞の「私の履歴書」というコラムにヤマト運輸元会長の小倉昌男氏の障害者の雇用への取り組みや支援についてのエッセイが掲載され、その理念に深く感銘を受け、ヤマト福祉財団の「パワーアップセミナー」へ参加したそうです。

「パワーアップセミナー」とは、クロネコヤマトの創始者、小倉昌男氏が、障害者の給料が月額3000円ということに驚き、民間人の立場で、その状況の改善に寄与できればとの思いで、障害者の給料を5万円にするためにはどうすればいいのか?ということに主眼をおいたセミナーだそうです。最初は「お役人」は参加資格がないと断られたそうですが、その熱意に後日、見学参加なら可能という返事が来て参加できたとのことでした。

経営は現在でも厳しいそうですが、営業開始からは本当に大変だったそうで、老後の資金の持ち出しも多く、経営の存続を悩んでいたときに、昔の役人時代の後輩から障害者自立支援法に就労支援事業A型というサービスがあることを教えてもらい、現在は、その指定を受けてなんとか経営を続けていられるとのことでした。

座長の緒方先生からも、「働く喜び」を障害者と分かち合うことが重要とのお話があり、私たち歯科医療従事者は、歯科での場面でしか障害者と接する機会がありませんが、患者さんである障害者の生活の場面の大部分を占める「障害者の就労」という面にも目を向け障害者福祉全般についても勉強しなくては思いました。

公開講座終了後の会場出口では、スワンベーカリー店で焼いたパンが聴講者一人一人に配られました。

閉会式およびプロフィラックス賞

学術委員会委員長の白川先生より選考委員の氏名公開の後、選考の経緯が報告され、第4回日本障害者歯科学会プロフィラックス賞の発表が行われました。

 受賞は、日本大学松戸歯学部附属病院の宮内知美先生の「自閉症患者における口腔清掃指導時の工夫―描画絵を使用してー」(Ⅱ―P3-04)に決定し、プロフィラックス賞のスポンサーであるタカラベルモント株式会社の須貝医療事業本部長の挨拶に続き、向井理事長より表彰状が、タカラベルモント株式会社より副賞が受賞者に授与され、その後に受賞者である宮内先生のスピーチが行われました。

 そして、閉会式は大会長の植松宏先生が檀上にあがり、無事閉会式が執り行われました


閉会式およびプロフィラックス賞


閉会式およびプロフィラックス賞