医療安全委員会 - 委員会

障害者は歯科受診時にパニックを起こすことがあり、一つに自傷行為がみられることがあります。自傷行為とは「自殺の意図なしに、自ら故意かつ直接的に、自分自身の身体に対して損傷を加えること」と定義され1)、精神医学的に対象となる「自傷」は重篤型、常同型、表層型/中等度の三つのカテゴリーに分類されます2)。知的能力障害者や自閉スペクトラム症の患者では普段から自傷行為を起こすことがあり、Lesch-Nyhan症候群と無痛無汗症は口腔自傷行為を伴う代表的な疾患とされています。自傷行為の発生機序は明らかにされていませんが、コミュニケーションが不十分な障害者においては、意思疎通が十分に行えないためのストレスや欲求不満、精神的緊張などが自傷行為として現れることがあるとされています3)

予防策としては、まず医療面接で普段からの発生要因をキーパーソンに聴取しておくとともに、治療前には体調や精神状態(情緒)の変化を確認しておきます。そして治療時には発生要因に配慮し、精神的・肉体的ストレスを与えないようにする必要があります。

自傷行為を起こした場合は、危険なものを遠ざけ、タオルなどで本人をガードするなどして大怪我につながらないようにし、本人が落ち着くまで刺激せずに焦らず待つことが大切です。

参考文献

1)Simeon, D. and Favazza, A.R.:Chapter 1. Self- injurious behaviors:Phenomenology and assessment. In:Simeon, D., Hollander, E., editors. Self-Injurious Behaviors. Assessment and Treatment. 1-28, American Psychiatric Press, Washington D.C., 2001.
2)松本俊彦,山口亜希子:自傷の概念とその研究の焦点.精神医学,48:468−479,2006.
3)松木響子,秋山茂久,他:永久歯20本を2週2度にわたり自己抜歯した知的障害者の1例.障歯誌,32:44–48,2011.

日本障害者歯科学会医療安全委員会
小野智史


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