医療安全委員会 - 委員会

粘膜の損傷は,歯科治療の特性から口腔内での小器具の使用や,注水下での高速回転切削器具の操作などにより起こるリスクが高くなります。多くはタービンバーや開口器の誤操作による舌あるいは頬粘膜の損傷です。また,開口保持が困難な脳性麻痺患者は,咬傷を伴うことも多く,患者に合ったマウスピースの作製や,歯科治療時の口唇巻き込みの予防として,ロールワッテや開口棒を使用するなどの工夫が必要です。同時に介助者が適切な吸引操作を行うことが重要です。この様な場合,患者に対する作為が存在するかが問題となります。我々の注意義務は危険予見義務と危険回避義務であり,これらについて義務違反があったといえるかどうかで法的責任が判断されます。

転倒は,一般に75歳から急激に件数が上昇し,大腿骨骨折が増加します。脳性麻痺やてんかんの患者は,歩行が困難な方が多く,普段の歩行も介助が必要なケースが多くなります。歯科に関しては,日常生活での転倒リスクが高くなると,前歯部の外傷のリスクが高くなりますから,マウスガードで防ぐ配慮が必要です。医療行為のみならず,診療所内での転倒やチェアーからの転落による負傷は,医療事故の範疇に入り,過失によって事故が発生した場合は医療過誤になり法的責任が問われます。でき得る限りの防止対策を講じた上で,発生した場合は速やかに対処できるようにフローを決めておくことが重要です。

参考文献

  • 歯科医療安全情報報告書 日本歯科医学会連合 歯科医療事故情報分析評価委員会
  • 障害者の歯科治療―臨床編― 一般社団法人日本障害者歯科学会編
  • 事例・判例から学ぶ 歯科の法律 医歯薬出版株式会社

日本障害者歯科学会医療安全委員会
水野 誠


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