第19回「感染性心内膜炎の予防が推奨される歯科処置と病態」
歯科処置を行う際に感染性心内膜炎(IE)高リスク患者に対して予防的抗菌薬投与を行うかどうかについては、ガイドライン1)において、予防的抗菌薬投与を強く推奨する処置と、推奨しない処置の2つに分類されています。抗菌薬投与が強く推奨されているのは、出血を伴い菌血症を誘発する可能性のあるすべての侵襲的な歯科処置であり、具体的には抜歯を含む口腔外科手術、歯周外科手術、インプラント手術、スケーリング、感染根管処置などが該当します。一方で、抗菌薬投与が推奨されない処置には、非感染部位への局所浸潤麻酔、歯科矯正処置、デンタルエックス線撮影、印象採得、口唇・口腔粘膜の外傷処置などが含まれます。また、抜髄処置についても、歯髄腔に感染がない場合はリスクが低いとされています。さらに、う蝕治療についても、出血を伴わない充填処置や歯冠修復処置では、IEのリスクは低いと考えられています。
感染性心内膜炎の主な病態としては、38.5℃以上の突然の高熱、心拍数の上昇、全身倦怠感などがあり、また、心臓弁や心内膜に付着した細菌や真菌による疣贅(ゆうぜい)が剥がれて他臓器に塞栓症を引き起こすこともあります2)。歯科処置後にこれらの症状が出現しIEが疑われる場合には、速やかに専門医の受診が必要です。いずれにしても、IE高リスク患者において口腔内の衛生状態が不良である場合、日常的なブラッシングや咀嚼などでも菌血症を引き起こし、IEの原因となり得るため、定期的な口腔管理の実施が極めて重要と考えられます。
参考文献
1)感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドライン (2017改訂版). 日本循環器学会合同研究班 2018.
2)心疾患を有する患者の歯科処置後に発熱を生じた時 河野憲司, 大分歯界月報, 2019
日本障害者歯科学会医療安全委員会
冨田智子