第21回「心理的安全性と医療安全」
近年、医療安全の分野において「心理的安全性(psychological safety)」の重要性が注目されています。心理的安全性とは、組織やチームの中で自分の意見や疑問、懸念を安心して発言できる状態を指し、発言したことで非難や不利益を受けないと感じられる環境のことです。医療現場では、この心理的安全性がチーム医療の質および医療安全に深く関係しています。
障害者歯科診療では、患者の基礎疾患、行動特性などが複雑に関係し、診療中に予期しない事態が生じることも少なくありません。また、行動調整や身体的抑制、鎮静法などの全身管理を伴うこともあり、歯科医師だけでなく歯科衛生士、看護師、介助者など多職種による連携が不可欠です。そのため、診療チーム内で小さな違和感や危険の兆候に気づいたスタッフが、躊躇なく声を上げられる環境が重要となります。
心理的安全性が低い職場では、「こんなことを言うと否定されるのではないか」「忙しいから言いづらい」といった理由で情報共有が行われず、ヒヤリ・ハット事例が見過ごされるリスクがあります。一方で、心理的安全性が確保された組織では、ミスや気づきを共有しやすくなり、チーム全体で学習しながら安全性を高めることができます。
心理的安全性を高めるためには、日常的なコミュニケーションの質が重要です。例えば、診療前後の簡単なミーティングやカンファレンス、ヒヤリ・ハット事例の共有、互いの意見を尊重する姿勢などが挙げられます。また、リーダーが率先して自らの失敗を開示し、発言を歓迎する姿勢を示すことが、組織文化の変容において重要な役割を果たします。
障害者歯科医療において安全で質の高い診療を提供するためには、設備や手技だけでなく、チーム内の心理的安全性を高める組織文化を育てることが重要です。それは結果として患者の安心・安全と、医療の質の継続的な向上につながります。
参考文献
Edmondson, A. C. Psychological safety and learning behavior in work teams. Administrative Science Quarterly 1999, 44(2), 350–383.
Nembhard, I. M., & Edmondson, A. C. Making it safe: The effects of leader inclusiveness and professional status on psychological safety and improvement efforts in health care teams. Journal of Organizational Behavior 2006, 27(7), 941–966.
日本障害者歯科学会医療安全委員会
小野智史